ミアーニ 訪問 2/2

” Buri(ブリ) ” 畑

ブリ畑を見下ろす、エンツォ・ポントーニ

再び車に乗り込み、” Buttrio(ブットリオ)” のエリアにある ” Buri(ブリ) ” 畑を目指し、泥道を進む。

” Filip ” 畑からは5分位の距離。

水たまりだらけの凸凹の農道を進む、エンツォの軽自動車は、酷く揺れる。

因みに、「Buri(ブリ)」という呼び名の由来は、Buttrio村のローカル・ネーム(地元での呼び名)である。

勾配の急な丘の斜面に植えられた、トカイ・フリウラーノ、メルロー、ソーヴィニョン・ブラン。

メルローは特に樹齢が古く80年以上経っており、隣の畝のトカイも60年の樹齢がある。

膝の高さ位にまで育った細長い牧草が、畑の斜面を覆い尽くしている。

下草に覆われた、ミアーニのブリ畑

日々この畑で仕事をしているエンツォ本人も、この牧草に足をとられ斜面を滑り落ちるほど、斜面のこう配が厳しい。

エンツォ曰く、この茫々に生い茂った下草がBuriのテロワールにとって重要なのだ、そうだ。

しかし、2008年は多くの造り手がそうだったように ” Buri ” の畑においても、ほぼ全ての葡萄が雨による結実不良を起こし、更に夏の雹(ヒョウ)の被害が凄まじく、壊滅的な状態。

「(黒くミイラの用になった)不良部分をいくら手で取り除いても、全く追い付かなかった」とやるせない表情で愚痴をこぼす。

ブリ畑1

ブリ畑2

ブリ畑の葡萄の木と下草

畑の仕立て方は、” Buri ” も ” Filip ” も、葉を多く蓄えた梢を1本だけ長く延ばし、その梢を棚の上部で束ね、短梢に葡萄の房を付けるように剪定している。

特に誘引らしきことは行なっていない。

「これが最もアンティークなやり方」だと、エンツォは語る。

カルヴァリの丘

” Buri ” 畑から” Filip ” 畑のあった方角を眺めると、小高い丘と古い教会が見える。

イタリアの片田舎らしい、のどかで郷愁のある風景を眺め、エンツォは語る。

E.「あの丘の名前が「Calvari(カルヴァリ)」だよ。 そこからレフォスコに名前を付けたんだ。」

ミアーニ_カルヴァリの丘
カルヴァリ畑

ミアーニのセラー

畑巡りの旅から戻り、セラーの中を案内してもらった。 ただ、セラーといっても、小さな「ガレージ」である。

残念ながら、既に今シーズンは既にワイン造りを完了しており、発酵槽やイノックス、バリックが綺麗に整頓されていた。

醸造設備に関しては、周囲の有名生産者と比べれば、日曜大工やDIYレベルの粗末なものである。
質素な道具で、世界中を虜にするワインを造っている、というのは、驚きだ。

ガレージ裏の一角には、トラクターや機器類を修理するための工具が整然と並べられている。
この辺は、元エンジニアの几帳面さを感じる。

地下のストックルームへ

ガレージの地下には、ボトル熟成中のワインのストックが眠っていた。

既に今年(2008年に)出荷する白ワインは、訪問した3日前にすべてボトリングが完了していた。

ミアーニのガレージ ミアーニのボトリングルーム

” Sauvignon Filip (ソーヴィニョン・フィリプ) ” 、 ” Sauvignon Saurint(ソーヴィニョン・サウリン) ” 、 ” Ribolla Gialla(リボッラ・ジャッラ) ” 、 ” Tocai Friulano Filip(トカイ・フリウラーノ・フィリプ) ” 、 ” Chardonnay(シャルドネ) ” などのボトルが、コンテナの中に横たわっている。

エチケットは、まだ無い。
今は、畑仕事が優先の時期で、折を見てはエチケッタ貼りや発送作業を進めている。

ミアーニ出荷待ちのボトル3

殴り書きで商品名が書かれた、「段ポールの切れ端」が置かれている。

何かの拍子で、この紙切れが飛んで行ってしまったら、トカイなんだか、ソーヴィニョンなんだか、判らなくなってしまいそう。

1、2本ラベルを貼り間違えても、そこはご愛嬌というところか。

ミアーニのラベル1
ミアーニのラベル2
高級ワイン「ミアーニ」のエチケッタやコルクが、無造作に置かれてる。

これは、衝撃的な画像!

ミアーニのセラーにあった、ロッソ・デラ・カステッラーダ

どういう経緯でエンツォのセラーに辿り着いたのかは不明だが、未使用のフレンチ・バリックの上に、なんと!ニコ・ベンサの造ったワインが転がっている。

セラーに「唯一」置いてあったミアーニ以外のワインが、「ロッソ・デラ・カステッラーダ 1999」とは!!

エンツォ自身、ニコ・ベンサやスタンコ・ラディコン、グラヴナーなど、ゴリツィアの造り手達をとても尊敬している。

ボトルを手に取り、「ホントに素晴らしい造り手だよ」と賞賛を贈った。

一緒に置いてあったプリントは、「今期出荷割当表」。(内容がわからないようボカシを入れています)
シャルドネやリボッラについては、800本。 カルヴァリについては、500本しかない。
改めて、ミアーニの生産本数の少なさを実感した。

ミアーニのロゴの意味

ガレージを後にし、エンツォ・ポントーニの自宅へ。

ミアーニの自宅のエントランス

家の壁にはミアーニのエチケットのイラストを描いた看板が取り付けられている。

ミアーニのロゴマーク

彼の話によると、
エチケットの「M。」は、自宅から見える山の背の形であり、
「緑」は、近所のSt.Michael教会。
「青」は、自宅。
「黄色」は、葡萄畑の下草となっている牧草。
「棒」は、畑の棚を横から見たところ。
らしい。

オーストリア人の友人が、エンツォの為にデザインした。

テスティング

キッチンでテイスティング。
2週間前にボトリングしたばかり、という ” Sauvignon Filip 2007 ” からスタート。

テイスティング直後、アロマが一般的なソーヴィニョンらしくなくない。
怪訝な顔をしていると、エンツォも同じく怪訝な顔。
慌てて保冷庫にボトルを持って走ってきた。
エチケットが貼っていないため、お母さんがこっそり前日飲んだ後に、トカイと間違えてコルク締めてしまったためだ。(コルクに品種を表示していた)

ミアーニ自宅テイスティング1

新たに注がれた ” Sauvignon Filip 2007 ” は、木が若いためか、複雑さやミネラル感は思っていたほど少なく、フルーティーで飲みやすい普通のワイン。(正直、あまり飛び抜けたものを感じません。)

暑い年のためか甘いワインが多い中、酸がギューと詰まったドライな味わい。

一次発酵終了後、そのままバリック新樽に入れ6ヶ月熟成させたらしい。あまり、バリックのニュアンスは強く出ていない。

日本への出荷は11月になる。

北イタリアの晩熟したソーヴィニョンはメロンの様な香りが出るものがあるが、彼はそれは駄目だと言い切る。

E.「ソーヴィニョンは、桃のような香りがするものが良い。」

次は ” Tocai Friulano Filip 2007 ” をテイスティング。

レモンとミントの香りがいかにもトカイらしさを感じさせる。

これもやはり酸味がしっかりしている。アルコール感はほどほど。アロマティックなワインではない。

個人的にはこちらのトカイのほうを高く評価。

E.「今の2本は、先週アメリカから来たジャーナリストの「ダニエル・トーマス(って誰だ?)」が来て飲んでいった以来、他人に出すのは2人目なんだよ。」

ミアーニ自宅テイスティング2

” Calvari(カルヴァリ)04 ” も飲むが、凝縮して、過剰な迄にタニック。
バリックからくる甘いロースト香が強く、果実味が強く残糖感がある。
少し青みのある香りも混じっていて、種からくるペッパーの香りがスパイシーな印象。

タンニンにざらつきを感じ、本音を言えばミアーニのフラッグシップと呼ぶにはずいぶん荒い造りだな、と思う。
10年くらい熟成させた後、本来のポテンシャルを発揮するワインなのかもしれない。

現時点では、ワインとしての完成度は、メルローの方が高いように感じた。

サプライズ

別れ際、先程のガレージに、再び招かれた。

「もう僕と君とは友達だから」との理由でワインをくれる、と言う。
貴重なモノだからお金を払わせて欲しいと言っても、エンツォは、絶対に受け取ろうとしない。

T.「エンツォさん、これ貴重過ぎて飲めませんよ。ずっと棚に飾っておかないと。」
E.「いやいや、飲んでよぉ~。飲んだ後、水を入れて栓しておけば、大丈夫だってばさ~。」

エンツォ・ポントーニ自身のグローブのような手。
いや、ホントにデカイ。

ミアーニ_エンツォ・ポントーニの手

エンツォと嫁さんの手の大きさの比較

マンガで、手が、何かに挟まったときに描かれるような、デカイさ。 

厳しい農作業のために、指はパンパンに膨れあがってる。
正真正銘の「農夫の手」である。

ボトルにサインをくれる、エンツォ・ポントーニ
太い指で、器用にエチケットにサインをしてくれた。
ハーフボトルに見えるが、まぎれもなく750mlサイズ。 改めて、いかにエンツォが巨漢か、判ると思う。

友情の証として、この世に1本のミアーニ・メルローを受け取る。

エンツォ・ポントーニのフランクで優しい人柄にふれてわかったこと。

それは、「一農夫として努力し続ける」謙虚さと情熱こそが「キング」である、ということだ。

 

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